物語の舞台となるのは、北インドのコーサラ国です。ダシャラタ王が国を治めていました。ダシャラタ王の母インドゥマティは、水の精霊アプサラスの生まれ変わりでした。彼女は聖仙の呪いによって人間に生まれ変わったのですが、身分にふさわしい夫と結婚することが許されていました。
ダシャラタ王は、アジャ王とインドゥマティの間に生まれた息子です。インドゥマティはネーミという息子を産んだ後に亡くなり、アジャ王も後を追うように亡くなりました。こうしてネーミが王位を継ぎました。彼は魔法の戦車を持っていたため、「ダシャラタ(十の戦車を持つ者)」と呼ばれるようになりました。
ダシャラタ王は、優れた戦士であり、戦車戦では無敵を誇っていました。彼は神々とアスラの戦いにも参加し、神々の側に立って戦いました。この戦いに、妻のカイケーイー妃も同行していました。カイケーイー妃はカイケーヤ国の王女で、武芸に秀でた女性でした。彼女は、ダシャラタ王が矢傷を負った際に戦車を駆って王を救い出し、さらに戦車の車輪が壊れた時には、戦いのさなかに修理して王の命を救いました。
この恩義に報いるため、ダシャラタ王はカイケーイー妃に、ふたつの願いを叶えることを約束しました。しかし、その時はカイケーイー妃は何も望みませんでした。
ダシャラタ王には、カウサリヤー妃、スミトラー妃、カイケーイー妃の三人の妻がいましたが、なかなか子供に恵まれませんでした。そこで、聖仙の助言に従って儀式を行い、ようやく王子たちが誕生しました。カウサリヤー妃はラーマ王子を、スミトラー妃はラクシュマナとシャトルグナを、カイケーイー妃はバラタを産みました。ラーマ王子は、ダシャラタ王の世継ぎとして、王位を継ぐことになっていました。
しかし、ラーマ王子が王位を継ぐ直前、過去の出来事が影を落とします。若い頃、ダシャラタ王は狩りの最中に、誤ってシラワン・クマールという青年を射殺してしまいました。青年の両親は、ダシャラタ王に「子供を失う」呪いをかけました。
そして、カイケーイー妃は、かつてダシャラタ王が約束した「ふたつの願い」を叶えるよう要求します。ひとつは、ラーマ王子ではなく、自分の息子バラタを王位につけること。もうひとつは、ラーマ王子を14年間追放することでした。ダシャラタ王は、この要求を受け入れ、ラーマ王子を追放した後に悲しみのあまり亡くなってしまいました。こうして、バラタがアヨーディヤーの王となりました。