老齢のため王位を負担に感じるようになったダシャラタ王は、退位を決意しました。後継者には、長男であり、知恵と慈悲深さで知られるラーマ王子が最適でした。ラーマ王子は礼儀正しく、王としての務めと神々への敬意を欠かさず、民衆からも慕われていました。ダシャラタ王が顧問たちにラーマ王子を次期国王にすると告げると、皆が心から賛成し、翌日に戴冠式が行われることになりました。
ダシャラタ王の妻カイケーイー妃も、息子バラタ王子を擁していましたが、ラーマ王子の即位に賛成していました。しかし、妃の侍女マンタラーは、ラーマ王子が即位すればカイケーイー妃とバラタ王子の立場が危うくなると考え、妃の心に疑念の種を蒔きました。マンタラーの言葉に惑わされたカイケーイー妃は、ダシャラタ王が自分を陥れようとしていると思い込み、かつて王に命を救われた際に約束された「ふたつの願い」を叶えるよう要求しました。
カイケーイー妃は「怒りの間」で夫の到着を待ちました。ダシャラタ王は、妃に吉報を伝えれば喜ぶだろうと期待していましたが、妃は取り乱した様子でした。王は妃になぜ気分を害しているのか尋ね、喜んでくれるなら何でもすると約束しました。するとカイケーイー妃は、ふたつの願いを叶えるよう要求しました。
その願いとは、バラタ王子を王位につけ、ラーマ王子を14年間森に追放するというものでした。ダシャラタ王は愕然とし、願いを撤回するよう懇願しましたが、カイケーイー妃は聞き入れませんでした。ラーマ王子が王宮にいられるならバラタ王子を王位につけると提案しても、妃は拒否しました。王は、妃の要求を受け入れるしかありませんでした。
ラーマ王子は、茫然自失としたダシャラタ王に事情を尋ねましたが、王は悲しみのあまり言葉を発することができませんでした。そこでカイケーイー妃が、王の代わりにラーマ王子に告げました。ラーマ王子は、妃の言葉に従い、王の要求を受け入れました。
追放を告げられても、ラーマ王子は動揺しませんでした。悲しみに暮れる両親に別れを告げ、怒りに燃える弟ラクシュマナを諭しました。ラクシュマナは王の決定に納得できませんでしたが、ラーマ王子はダルマ(法)に従うことが正しい道だと説きました。
ラクシュマナと母カウサリヤー妃はラーマ王子に同行しようとしましたが、ラーマ王子は許しませんでした。しかし、妻シーターは同行を主張し、ラーマ王子と共に旅立つ準備を始めました。ラクシュマナも、ラーマ王子と共に追放の道を選ぶ決意を固めました。こうして3人は、王宮を後にしました。多くの民衆がラーマ王子に付き従い、どこまでもついて行こうと決意していました。
しかしラーマ王子は、民衆が森の過酷な生活で苦しむことを望みませんでした。最初の夜、ラーマ王子たちは民衆が眠っている間にこっそりと立ち去りました。民衆は家に戻り、ラーマ王子一行は旅を続け、ガンジス川にたどり着きました。そこでラーマ王子は、友人であるグハ王に迎えられました。グハ王は一行に贈り物をしようとしましたが、ラーマ王子は隠者として生活することを誓っているため、辞退しました。
翌日、一行はガンジス川を渡り、追放生活に入りました。ラーマ王子は、ダシャラタ王の大臣スマントラに戦車を託し、王宮へ帰還させました。スマントラは、ラーマ王子が追放生活に入ったことを王に報告し、バラタ王子への祝福の言葉を伝えました。
スマントラの報告を聞いたダシャラタ王は、悲しみのあまり亡くなりました。バラタ王子は王位を継承しましたが、ラーマ王子を追放したという事実は、彼の心に暗い影を落としました。バラタ王子はラーマ王子を連れ戻そうと、森へ向かいました。
バラタ王子はラーマ王子に父の死を伝え、王位に戻るよう懇願しました。しかし、ラーマ王子はダシャラタ王との約束を守るため、14年間の追放生活を全うすることを決意しました。そして、バラタ王子にアヨーディヤーで王として国を統治するよう告げました。
バラタ王子は兄の言葉に従い、ラーマ王子の名代として国を統治することにしました。都の近くの村で隠者として暮らしながら、王としての務めを果たしました。王宮にはラーマ王子の履物が置かれ、ラーマ王子の帰還を待ち望んでいました。ラーマ王子一行は、ダンダカの森で追放生活を始めました。